物語のなかにある物語

クーネオ(北イタリア・ピエモンテ州)の小さな商店が立ち並ぶ活気ある地区、そのなかの一軒が僕の両親が営むパン屋で、父と母は人生の大半をそこで働いていたんだ。

待ち合わせ場所のトリノにあるヴァレンティーノ公園に自転車に乗って現れたマルコ・パスケッタ。
『じかん屋テンペリア』のイラストレーターは言葉を選びながら穏やかに話してくれた。


僕にとって子ども時代の思い出は、パン屋とその匂いなんだよ。父が毎日上げ下げしていた金属製のシャッターや、辺り一面に漂うパンの匂い。
パン屋の前の舗道でいつも友だちと遊んでいて、その周辺に住む人たちが通り過ぎては、みんな声をかけあっていたよ。
ルカ(『じかん屋テンペリア』の作者)の書いた話を初めて読んだとき、その情景と匂いが蘇ってきた。
『じかん屋テンペリア』は想像だけじゃなくて、僕の記憶をもとに描いたんだよ。

この日、一緒に質問をしてくれたトリノ在住の作家ミケーレ・カペッタに感謝を込めて。

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